十九歳 ― 2006/06/15 23:37
「ねえ、十九歳になるってどんな感じ?」
もうそろそろ自分の部屋に戻ろうと思ったとき、いきなり弟がとんでもないことを尋ねてきた。
一体、この少年の頭の中では何がどうなっているのだろう。時折、彼は突拍子もなく私が困ったことを言う。
「分からないわよ、いきなりそういわれても」
どういったら良いものか、私は答えを探すように部屋中を見回す。
傷だらけのソファー(真犯人は私)、古いステレオ(私は使えない)、大きな振子時計(祖父の代からある)……あと数分で明日になる。
「じゃあ。十五歳と比べてみたら?」
どうしてなのかは分からないけど、何とかして十九歳について聞き出したいらしい。
もしかしたら十五歳の少年というものは十九歳に何か特別な関心があるのかもしれない。
十五歳の少女だった頃の私は、そんなことなんて思いつきもしなかった。
「十九歳は十五歳に比べて」
私は(冗談抜きで正直に)答えた
「四歳年上」
「そ、そうじゃなくて」
「じゃあ、何ていえば良いのよ」
何かに例えてみる……
これなら、私も弟も納得することができるかもしれない。それに私は、割合そういうことが好きなのである。
それならば、例えてみよう。
「いきなり十九歳、というのは無理よ。順序よく十六歳からいかなきゃ」
「十六から……」
「そう、それはね高原に――それも誰も行ったことがないような場所に私だけがいるの」
「高原? どうして」と不思議そうに弟。
「そういう場所にいるような気分になるのよ。
十七歳は空を見上げているの。遠い空。雲ひとつない、星まで見えそうなほど蒼い空。
それから十八歳は、その空へ飛ぼうとする気持ちと背中の翼なの」
「十九歳は?」
「十九歳は……」
いいかけた時、時計が零時を知らせた。
「大地を蹴って、飛び立とうとするその瞬間よ」
弟は何もいわずにソファーから立ち上がり、書棚からレコードを一枚取り出した。そして注意深くレコードに針を落とす。
私の好きな曲が静かに流れはじめる。
私は今、十九歳になった。
制作:1989年くらい
分類:散文詩、連作「飛翔の夢」の1
もうそろそろ自分の部屋に戻ろうと思ったとき、いきなり弟がとんでもないことを尋ねてきた。
一体、この少年の頭の中では何がどうなっているのだろう。時折、彼は突拍子もなく私が困ったことを言う。
「分からないわよ、いきなりそういわれても」
どういったら良いものか、私は答えを探すように部屋中を見回す。
傷だらけのソファー(真犯人は私)、古いステレオ(私は使えない)、大きな振子時計(祖父の代からある)……あと数分で明日になる。
「じゃあ。十五歳と比べてみたら?」
どうしてなのかは分からないけど、何とかして十九歳について聞き出したいらしい。
もしかしたら十五歳の少年というものは十九歳に何か特別な関心があるのかもしれない。
十五歳の少女だった頃の私は、そんなことなんて思いつきもしなかった。
「十九歳は十五歳に比べて」
私は(冗談抜きで正直に)答えた
「四歳年上」
「そ、そうじゃなくて」
「じゃあ、何ていえば良いのよ」
何かに例えてみる……
これなら、私も弟も納得することができるかもしれない。それに私は、割合そういうことが好きなのである。
それならば、例えてみよう。
「いきなり十九歳、というのは無理よ。順序よく十六歳からいかなきゃ」
「十六から……」
「そう、それはね高原に――それも誰も行ったことがないような場所に私だけがいるの」
「高原? どうして」と不思議そうに弟。
「そういう場所にいるような気分になるのよ。
十七歳は空を見上げているの。遠い空。雲ひとつない、星まで見えそうなほど蒼い空。
それから十八歳は、その空へ飛ぼうとする気持ちと背中の翼なの」
「十九歳は?」
「十九歳は……」
いいかけた時、時計が零時を知らせた。
「大地を蹴って、飛び立とうとするその瞬間よ」
弟は何もいわずにソファーから立ち上がり、書棚からレコードを一枚取り出した。そして注意深くレコードに針を落とす。
私の好きな曲が静かに流れはじめる。
私は今、十九歳になった。
制作:1989年くらい
分類:散文詩、連作「飛翔の夢」の1
紙ヒコーキ ― 2006/06/21 00:22
紙ヒコーキが飛んでいる
落ちているのではなくて
漂っているのではなくて
彼女が蔵で暮らすことを望んだとき
父親は誰にも悟られないよう
泣いていた
(僕は知っていたが見ぬふりをした)
家で一番高い窓から空を眺めていたいの
そういって彼女は
蔵に入った
そして誰にも会わず
狭い窓から空を眺めていた
一雨ごとに
春が近づいて
庭の片隅の姥桜が咲く頃
彼女から
最後のメッセージ
紙ヒコーキが飛んでいる
落ちているのではなくて
漂っているのではなくて
花びらのせて
僕のほうへ
制作:2002年2月23日(ベースのものは1990年くらい)
分類:連作「飛翔の夢」の2
落ちているのではなくて
漂っているのではなくて
彼女が蔵で暮らすことを望んだとき
父親は誰にも悟られないよう
泣いていた
(僕は知っていたが見ぬふりをした)
家で一番高い窓から空を眺めていたいの
そういって彼女は
蔵に入った
そして誰にも会わず
狭い窓から空を眺めていた
一雨ごとに
春が近づいて
庭の片隅の姥桜が咲く頃
彼女から
最後のメッセージ
紙ヒコーキが飛んでいる
落ちているのではなくて
漂っているのではなくて
花びらのせて
僕のほうへ
制作:2002年2月23日(ベースのものは1990年くらい)
分類:連作「飛翔の夢」の2
飛翔の夢 ― 2006/06/22 00:09
だんだん 私の体は
重さをすてて
だんだん 私の体は
透きとおって
なのに この
動く鈍さは どうしてなのだろう
なのに この
気だるい悪寒は なぜなのだろう
風
を待っている
私
を 縛りつけるように
まるで
空は
青
風は まだ
こない
蔵の小さな窓
から見える 満開の
姥桜
に
紙ヒコーキ
飛ばして
それは
落ちているのではなくて
漂っているのではなくて
桜の樹の枝に
辿りつくまで
束の間
風 流れてはじめ
て
紙の翼
が舞いおちる
桜の花びら
のせて
告げる 合図
空は
青
風が ようやく
やってきた
だんだん
だんだん
私の体は
重さをすてて
だんだん
だんだん
私の体は
透きとおって
風が
つよく
はやく
流れ
はじめた
から
私
は
風に
のって
流れ
流れ
て
飛翔の夢
を
みる
思い
は
空に
心
は
制作:2003年3月18日
分類:連作「飛翔の夢」の3
重さをすてて
だんだん 私の体は
透きとおって
なのに この
動く鈍さは どうしてなのだろう
なのに この
気だるい悪寒は なぜなのだろう
風
を待っている
私
を 縛りつけるように
まるで
空は
青
風は まだ
こない
蔵の小さな窓
から見える 満開の
姥桜
に
紙ヒコーキ
飛ばして
それは
落ちているのではなくて
漂っているのではなくて
桜の樹の枝に
辿りつくまで
束の間
風 流れてはじめ
て
紙の翼
が舞いおちる
桜の花びら
のせて
告げる 合図
空は
青
風が ようやく
やってきた
だんだん
だんだん
私の体は
重さをすてて
だんだん
だんだん
私の体は
透きとおって
風が
つよく
はやく
流れ
はじめた
から
私
は
風に
のって
流れ
流れ
て
飛翔の夢
を
みる
思い
は
空に
心
は
制作:2003年3月18日
分類:連作「飛翔の夢」の3
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