砂と風2005/08/21 21:20

その一歩一歩を
確かめながら
ゆっくりと
砂の大地を踏みしめる
まるで
はじめて歩くように

僕は砂漠に行きたい

天蓋を仰ぎ
生理的な涙と
感情的な涙を流す
そして
陽炎の彼方を
向く

僕は地平線を見たい

砂の河に遭った
岸辺で嗚咽を漏らす
頭骨
水の一滴が
生命を育むのなら
砂の一粒が
生命を奪うのだ

僕は砂に触れたい

砂丘をつくる

水を奪う

時を刻む


僕は風になりたい
一陣の風になって
砂漠を旅したい



製作:1991年くらい

土の下2005/08/13 01:55

この前までは
灌漑を作るための
少し壊れた鋤で
掘る穴

彼女は哀しげに
でも 手を休めずに
掘り続ける
ちょうど
子供が入るくらいの
穴を

空には
憎しみの鉄が
轟音を響かせ
彼女は少し身をすくめ
通り過ぎるのを
待っている
それでも 手は休めないで

土の下に
埋められたものが
さらに
深い深い地中のものによって
未来を奪われたことを
彼女は知らない

埋め終わった後
彼女は
花がない代わりに
せめて
涙を手向けようとしたが
砂と埃で
すぐに消えてしまった


分類:社会的
製作:2002年1月18日

やちまなこの空2005/08/09 01:16

ほんの数日前、僕は道端に落ちていた鏡の破片を覗き込んでみるとそこに〈眼〉があることに気付いた。それは道の中から僕を見つめていた。鏡は心なしか歪んでいるみたいだった。その歪んだ鏡の中の歪んだ〈眼〉から、とめどもなく涙があふれてくれば、この辺は海水のような涙できっと大変なことになるだろう。その涙で海ができれば、僕は泳げないから溺れてしまう。他人の涙はその人だけの薬のようで、僕には気分の良いものではないかもしれないけれど、僕の涙だったら、僕だけが気分が良くなるのだろう。僕は気分が良いままユラユラと涙の海底に沈んでいき、涙の海水を飲んでしまった内蔵からユックリと気分の良いまま溶けていく。僕が混ざっている涙の海は水かさを増していって、ノアの箱舟の建造を邪魔して、本物の海を覆いつくし、街や山を沈めていく。その間、薄くなってしまった涙のせいで気分が良いのが変わってしまった僕は溶けるのをやめてしまう。そして海の底で次第に過飽和になっていき、鏡の破片の中で〈口〉になって、涙である海水を(もちろん本物の海水と分けて)吸い込んで、まるで何事もなかったようにしてから、再び〈眼〉になって僕をみつめるまで、鏡の中で〈空〉になっているのだろう。


分類:散文詩
製作:2001年10月27日
備考:やちまなこ(谷地眼)=湿地帯などにできる底無し沼(らしい)